大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)1426号 判決

上告人

インターナショナル通商株式会社

右代表者

坂本好誠

右訴訟代理人

増田弘麿

被上告人

鈴木自動車株式会社

右代表者

鈴木栄二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人増田弘麿の上告理由第一点について

手形法七五条、七六条は、約束手形において振出日の記載を必要とするものとし、手形要件の記載を欠くものを約束手形としての効力を有しないものと定めるにあたり、確定日払の手形であるかどうかによつて異なる取扱いをしていないのであるから、確定日払の約束手形であつても振出日の記載を欠くものは約束手形の効力を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第九六〇号同四一年一〇月一三日第一小法廷判決・民集二〇巻八号一六三二頁参照)。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

(和田誠一 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人増田弘麿の上告理由

第一点 原判決は法令の解釈を誤つた違法があり取消されるべきである。

一、原判決は、「確定日払の約束手形においても、他の場合と同様、振出日が手形要件であり、これを欠く証券が約束手形たる効力を有しないものであることは、手形法上一義的に明白であり、手形が厳格な法定の要式証券であることを考えると、単に手形上の権利の内容を確定する上で不可欠ではないとの理由から、右振出日を手形要件ではないと解することは出来ない」と判示している。

二、しかし、右判決理由によつても、法律上何らの意味もない振出日の記載を手形法第七五条が何故、わざわざ手形要件としたかの理由としては、誰をも納得させることは出来ない。

第一審、原審並びに今迄の最高裁判所の判例の態度は、端的に表現するなら、理由はともあれ、手形法第七五条に振出日が要件となつているから、要件なのだと云つているに過ぎないように思われる。

三、手形法の立法当時、日付後定期払、一覧後定期払、一覧払、確定日払の各々の約束手形について、振出日がどのような意味をもつのかを充分検討していれば、確定日払約束手形については、何らの意味もないことが解るはずであるから、要件から除外すべきであつた。それを除外しなかつたのは立法の誤りである。

原判決がその誤りを認めないのは、法律の解釈を誤つたからである。

第二点 振出日を白地とする確定日払約束手形の呈示も、支払呈示として有効とする事実たる慣習が存在しており、原判決はその点を見落した違法があり、取消されるべきである。

一、取引界において、確定日払約束手形について、振出日欄が白地のまま流通し、決済されていることは、第一審判決の摘示するとおり公示の事実である。

最高裁判所が昭和四一年に、そのような手形の呈示は法律上無効と判示したあとも、取引界では相変らず流通し決済されて来た。

銀行は、右最高裁判所の判例があるにも拘らずその実態を無視できず、その九年後に全国銀行協会制定当座勘定規定一七条で支払つてもよい旨の規則を制定し、混乱を回避する方策をたてざるを得なかつたのである。

二、現在では、取引界においては、確定日払約手については、振出日白地のまま流通及び決済は取引に何ら支障がないため有効として認識され慣習化している。今後もその慣習は続くものと確信できる。

判例が現在のような判断を変えなければ、本件のように手形を乱発し、悪用したものが、たまたま、手形法の規定に反していることを発見し、それを奇貨としてその支払を免れるという手段に利用され、大多数の善意な利用者に思わぬ損害を与える結果となる。

原判決は、右慣習化している取引の実態を見誤つた違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例